![]() |
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
ndex > 年次大会 > 第12回大会 |
|||||||||||||
![]() 課題研究1: 学力の国際比較をみなおす 課題研究2: 新興教育運動の社会史―中間報告― 公開シンポジウム: 「自ら学び,考える力」をどうとらえ, いかに評価するか |
![]() ![]() ![]() |
||||||||||||
|
|||||||||||||
![]() まず木村会員が,本課題研究の趣旨について提示しました。 IEA(The International Association for the Evaluation of Educational Achievement,国際教育到達度評価学会)が実施した第3回国際数学理科教育調査(Third International Mathematics and Science Study,略称TIMSS,1995年実施)は,中教審や教課審の答申の根拠となるなど,社会的に大きなインパクトを与えていますが,往々にして,報告書(特に国内報告書)の文言が一人歩きするなどの問題もあります。 そこで,調査手続き,学力観等について,昨年は国立教育研究所(国研,現・国立教育政策研究所)による国内報告書に焦点を当てたのに対し,今回はIEAの報告書そのものに焦点化して,両者の間のズレをみるというのが趣旨だと木村会員は述べました。 具体的な比較のポイントとして木村会員は,TIMSSで実施することになっており諸外国でも行われているのに日本では行われていない調査項目,85年の第2回算数・数学教育到達度調査からの「転回」といわれるものの実相などを挙げて,以下の報告者に引き継ぎました(以下,具体的な比較の対象は,日本が継続して調査に参加している中学校数学に限定)。 平岡会員は,TIMSS以前の2回も含めたIEAによる算数・数学の教育調査について,国内事情報告,生徒質問紙などを比較しながら,第2回から第3回にかけてカリキュラム調査の枠組が変化している(内容×目標の2次元から内容×行動的期待[performance expectations]×将来への展望[perspectives]の3次元へ)こと,生徒質問紙には一貫して(日本式にいえば)「関心・意欲・態度」に該当する調査項目があること,同じく生徒質問紙で,日本では家庭状況に関する項目が省かれる傾向にあることなどを指摘しました。 北林会員は,平岡報告で指摘された「カリキュラムの枠組の変化」について,本来は報告に理由が明示されるべきなのに,該当する記述が見当たらないことを指摘しました。 その上で,変更の理由を推測すべく,第3回調査の国内報告書の調査の目的と結論を子細に比較した結果,目的に対応する結論は,「調査結果のまとめ」には示されず,報告書の随所に断片的に示されていると述べました。 その上で,とくに注目すべき点として,3次元の枠組のうち「将来への展望」は「教科書などの分析のために設定された観点であり,『達成したカリキュラム』(≒学力)を分析の対象としてはいない」「枠組の変更の中心は『行動的期待』に関わる部分であり,生徒の身につき方をどのようにとらえるか,という点である」といったことを挙げました。 また,TIMSSでは,前2回の算数・数学教育調査と異なり,履修状況ではなく家庭の状況と学力との関連が強調されていることをどう受け止めるか,などの検討課題を挙げました。 斎藤会員は,TIMSSの調査方式と日本国内のそれとを比較し,前者がWritten Test,Performance Assessment,Questionnaireの3種からなるのに対して,日本ではPerformance Assessmentが未実施であることなどの相違を指摘しました。 そして,論点として,TIMSSのいう「達成したカリキュラム」は日本でいう「学力」とおおむね齟齬はないが,報告書でしばしば言及されるattitudesは「達成したカリキュラム」には含まれず,学力形成に関わる生徒の特性としてとらえられていること,日本での調査は,学力のうち「行動的期待」に関わる部分についてPerformance Assessmentによる検証を欠いており,学力調査としては問題を含むこと,家庭状況に関わる調査が省かれることにより,学力が学校教育の所産としてのみとらえられる危険性があること,などを指摘しました。 以上を受けて,ふたたび木村会員が,国際的なカリキュラム改革の動向と学力調査の関係について,たとえばアメリカなどでは標準テストが強化される一方で,その画一性への批判という意味も込めてauthentic assessment(真正の評価)が主張されていること,それに対しての日本の教育改革の特徴,などに言及して報告を閉じました。 討論に先立って,指定討論者の田中会員は,学力調査の定義や,学力(比較)調査にともなう留意点などを述べた上で,IEA調査に即しては,ブルーム(Bloom, B. S.)の影響が大きかった第1回では,「態度」にかかわる部分がaffective domain(情意領域)として行動目標論の範疇で概念化されていたのに対し,第3回では,「態度」が,パフォーマンスだけでは処理しきれないという問題意識が出てきていることを指摘しました。 日本の文脈によりひきつけていえば,IEA調査を根拠に,「関心・意欲・態度」が諸外国に比べて低いというとらえ方がなされ,それを独自に育成しようという発想が「新学力観」として表明されてきました。しかし,「学力低下」論議の中で,逆方向へのブレも出てきています。 最後に田中会員は,ブルームのタキソノミー(教育目標の分類学)の近年の発展の中で,行動目標論の側でもメタ認知,自己評価などがくみこまれていることを紹介し,こうした研究は今後のわれわれの検討課題でもあると問題を提起しました。 以上の報告を受けての討論では,カリキュラム調査の枠組がはたして「変わった」のかどうか,「将来への展望(というのはperspectivesの訳語としては不適だとの指摘が松下会員よりありますが――『学会通信』前号参照)」やattitudesの位置づけ(学力そのものに位置づけるのか,学力形成にかかわる要因と位置づけるのか)などが論点となりました。 それらについて結論が出たとはいえませんが,昨今の「学力低下」論議との関連では,分数ができるのできないのというパフォーマンスレベルと同様に(あるいはそれ以上に)深刻なのは学習意欲の喪失だ,との指摘がされています。 そのこととの関係では,attitudesやperspectivesを規定する要因を学校外も含めて広く探る,という課題は浮き彫りになったといえると思われます。 |
|||||||||||||
文責:山 崎 雄 介 (京都光華女子大学短期大学部、学会事務局) |