
課題研究:
社会科で習得させる知識・理解と
価値観・行動の指導と評価
―国内外の関連領域の検討をふまえて―
課題講演:
戦後の学校の展開と人づくりの課題
公開シンポジウム:
教師として求められる資質・能力
―教育目標・評価論からの提起― |

公開シンポジウム
教師として求められる資質・能力
――教育目標・評価論からの提起―― |
司会
コーディネーター: |
藤 岡 秀 樹(京都教育大学) |
指定討論者: |
木 原 成一カ(広島大学) |
シンポジスト: |
教職大学院における教員養成と研修
山 崎 雄 介(群馬大学)
教員養成の運営と評価にみる日本的特質
――教育実習を中心に――
岩 田 康 之(東京学芸大学)
子どもたちの願いを踏まえた学校現場の取組
盛 永 俊 弘(長岡京市立長岡中学校) |

教員養成のあり方をめぐってさまざまな改革が進められようとしています。本シンポジウムは、今回の大会が教員養成大学で開催されることを踏まえ、「教師として求められる資質・能力」について、「教育目標・評価論から議論する」という主旨のもとに企画されました。
当日は、まず司会・コーディネーターの藤岡秀樹会員が、文部科学省の「これからの学校教育を担う教員の資質能力向上について(中間まとめ)」などを取り上げ、教員養成や研修制度をめぐる改革動向を紹介するなかで、これからの教師に求められる資質・能力について議論を深める必要性を指摘しました。
最初の報告者である山崎雄介会員は、教職大学院にまつわる批判的な「言説(特に具体的な実践をふまえないそれ)」への「苛立ち」があることに言及した上で、群馬大学教職大学院での取り組みを紹介しました。
その一例として、学部新卒者も含め、「自身の実践を素材とし、実習と連動した『課題研究』の実施と報告書執筆を修了要件として課している」ことが説明されました。具体的には、まず「課題発見実習T」(1年次6月)において、特別支援学校や小学校、中学校、幼稚園など、「校種を越えた学校教育全体のつながりを把握し、学校教育の全体構造の理解を深める」ことがめざされます。次に、「課題発見実習U」では、小学校・中学校での各12日間の実習を通して、「現職教員学生」は勤務校以外での観察・参加により「自らの実践を省みる」こと、「学部新卒者」は観察・参加により「自己の知識や技能の改善点を認識する」ことをめざし、両者ともに「研究課題を明確化する」機会とします。その上で、「課題解決実習」(2年次前後期)において、各自の課題研究テーマの解決に向けた実践を30日間行うことになります。ここでは、大学院の指導教員(研究者・実務家)2名がペアになり、巡回指導を実施していることが紹介されました。
このような実践を行っている群馬大学教職大学院では、アドミッション・ポリシーなどにおいて、「目標」とする「資質・能力」に関して、@「課題を分析、把握する力」、A「対応策を構築する力」、B「実践する力」、C「実践を評価し、再考察する力」が考慮されていると指摘されました。山崎会員は、それぞれの中身の詳細について説明を加えた上で、これらの「資質・能力」の「試金石」となるのが、先述の課題研究・課題解決実習であるとして、実際の修了生の行った課題研究テーマの一覧と事例を紹介しました。
さらに、「資質・能力」の形成と評価への示唆として、「実践的知識」は経験の積み重ねの中でしか形成されえない状況依存的で多面的・個性的な見識であるという意見を取り上げながら、山崎会員は、資質・能力向上に資する「経験」をもたらしうる「状況」(文脈)を、「研究者教員・実務家教員とともに創出し、そこにコミットしていく」という「しかけ」が重要であると指摘しました。その際、「資質・能力」単体の評価は困難であるということにも言及しました。
2人目の報告者である岩田康之会員からは、教育実習の日本的な特質として、指導能力やその基盤となる知識・技能に加えて、「身だしなみ」「立居振舞」などの「外形的要素」が求められ、時として後者が重視されるのはなぜかという問いのもと、そこに教育実習をめぐる日本的な布置関係のあることが指摘されました。
岩田会員によれば、日本の教育実習の場合、中央政府の直接管理の弱さとともに地方政府(教育委員会)への強い権限集中が見られます。とくに日本の大都市圏では一つの教育委員会の管轄下に多くの大学が集中し、教育委員会への負荷がかかるなか、「大学が劣位に置かれる関係」が定着しているとされます。つまり、さまざまな権限を有する教育委員会が、大学に対して、教育実習に参加できる者は「教職に就く意思のある者であること」、「教員採用候補者選考試験を受験予定の者であること」などを要求して絞り込む構造があるというわけです。
これに対して、岩田会員自身が東アジア諸地域で教育実習の参与観察を行った結果も紹介されました。大学主導で実習プログラムをアレンジするソウルなどに比べ、日本の場合は、教育委員会が「大学を縛る」という「力関係」の違いがあることが指摘されました。
そのため、日本の大学においては教育実習の要件に「誓約書」「意思確認書」「面接」「レポート・小論文」などの「主観的要素」を課すということが定着しつつあるのではないかという点が、最近の岩田会員の調査をもとに指摘されました。知識や技能という点で学生を絞り込むことが難しいために、主観的要素(強い教職志望、使命感、態度、立居振舞等)で絞り込む状況が見られるというわけです。これからの教員養成のあり方として、教師としての倫理、知識・技能、あるいは実践的指導力のいずれを重視すべきか、考えていく必要のあることが指摘されました。
また、教員養成の担い手の問題として、研究者と教師、個別科学の科学者が協同で教育にあたるのか(たとえば「学びの共同体」論)、あるいは教育委員会指導主事が実践にもとづいて指導するのか(たとえば「教師養成塾」)、という発想の違いも見られる今日、教育実習の評価指標の共同開発などを行っていくことが求められると岩田会員は主張しました。
3人目の報告者である盛永俊弘氏は、学校現場での取り組みをもとに、子どもたちや学校がどのような教員を求めているのかについて報告をしました。
盛永氏によれば、子どもたち(中・高校生)が求めている理想の教員像としては、「わかりやすい授業をする先生」、「生徒とのコミュニケーションを上手にとることができる先生」、「クラスをまとめることができる先生」、「誰に対しても笑顔で明るく関わる先生」などが先行研究で指摘されているとのことです。
公立の学校現場に大きな影響を与える国の動向などについても言及するなかで、盛永氏は、経団連が出した「国立大学改革に関する考え方」(2015年)において、「即戦力」を有する人材像とは「対極」のものが志向されていること、また自身も関わった国立教育政策研究所による調査『全国学力・学習状況調査において特徴ある結果を示した学校における取組事例集』(2009年)において「学校と児童生徒や保護者との間に強い信頼関係」のあることが秘訣になっていることなども紹介しました。
次に、学校はどのような教員を求めているのかについて、第一に、「授業づくりと生徒理解を深める」ことが重要であると指摘しました。わかる授業づくりと、居場所づくりや絆づくりは密接に関わっているとして、両者に積極的に関与できる教員が求められていると盛永氏は主張しました。第二に、「学校が抱える課題に挑む」教員が求められていると指摘しました。不登校や“子どもの貧困”が問題となるなか、これらの課題に挑むことが重要になっているとされました。第三に、「子どもたちを座標軸に本気でぶつかる」必要性が指摘されました。とくに最近の教育実習生から感じることとして、礼儀正しさや指導案作成などにおいてうまくこなすことができる一方で、どこか「こじんまり」とした印象も受けることなどから、複眼的な批判的思考力なども求められるのではないかと指摘されました。
また、教員の資質・能力を伸ばす学校づくりとして、管理職の役割も重要であり、一人ひとりが「有能性」「自律性」「関係性」を高めていくことができるような環境づくりの必要性が指摘されました。最後に、知識・技能に加え、非認知的な能力の大切さも指摘される時代のなかで、大学4年間で何をどこまで育てるかを考えていく必要があるとされました。
以上の3人の報告を受けて、指定討論者である木原成一郎会員からは次のような指摘がありました。まず、山崎会員の報告に対しては、多様な文脈が想定される教育実習に対して、統一的な評価指標を作成することは困難ではないか、作成したとしても指導の改善に資するような有益な情報を提供するものとなるか、また「課題を分析・把握する力」の育成は、教える経験そのものがもつ限定性ゆえに困難な部分もあるのではないかという点が指摘されました。
次に、岩田会員の報告に対しては、免許取得者数と実際の教員採用数との間にギャップがあることをどう見るか、また教員採用試験の面接で資質・能力が判定される現状において、知識・技能を主な指標として評価してきた大学にはいったい何ができるのかという点が指摘されました。
さらに、盛永氏の報告に対しては、教員養成系大学の出身ではない先生も良い先生になっているということをどう考えるか、結局のところ、卒業論文などによる課題探究力が教員生活において果たす役割が大きいのかどうかという点が指摘されました。
これらについて、山崎会員からは、児童生徒支援能力や学校運営力が高まっているという自覚が院生の間に見られることが紹介された上で、統一的なルーブリックはつくりにくいかもしれないが、授業をつくりかえるときにどんな指標を用いるかという点については考えていくことができるのではないかと指摘されました。
岩田会員からは、開放制原則のもと、教員採用数の増加に躍起になる大学が出てくるなかで、仕組みそのものを考える必要のあること、さらに大学が弱い位置に置かれている現状において、さまざまな大学が連合体として協力し、統一した指標を提案していく動きなどに可能性を見出せることが指摘されました。
盛永氏からは、教員養成系大学の出身であるかどうかという点にそれほどの差はなく、むしろ教師になってからが「勝負」であることが指摘されました。
これらの質疑応答に加え、フロアからも意見が出されました。たとえば、研究者が実践を見るまなざしが教員にも求められるのではないか、地域特有の課題への対応という視点は教員養成においてどのように取り上げることができるか、学校においては授業づくりが主で教科内容への理解が重要だと思われるがそれについてどう考えるか、などの意見が出されました。
また最後に、最近の学生は時間割も詰まり忙しくなっているとして、大学生活のなかに余裕がなくなっていることを懸念する声も出されました。登壇者からは、縛りがきつくなる状況のなかで、国からは独立した発想が大切であるという指摘や、大学としていかに豊かな学びを学生たちに提供できるのかが重要になるという指摘がなされました。 |
文責:樋口とみ子(京都教育大学) |
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